私は自分の学生時代、前職も含め男女共学の学校しか経験したことがありません。かつて古代中国、前漢の時代の儒教書『礼記』の内則には「男女7歳にして席を同じうせず(同じ敷物に座らない)」という戒めがあり、日本でも先の大戦(70年以上前)まではそのような空気がありました。その反発もあってか男女別学は不自然と思っていました。
しかし、戸板女子短期大学に赴任して、女子大というのは、教育上、利点が多いものと認識し直すようになりました。そこで、日頃の仕事の体験も織り交ぜ、戸板女子短期大学の素晴らしさをこれから紹介しましょう。
もっとも、我々が目にできる自然物に絶対的な法則がないことと同様、男女の違いというのは、個人によって集団によって例外はいくらであり、どちらかというと数が違うというような傾向に過ぎないことを、あらかじめお断りしておきます。
1.自分らしさを出せる
女性は男性に比べ明らさまな競争を好まず、協調性を大切にする一方で、受身的な対応の方が多いように見えます。例えば、学籍番号が近い人中心に友人のグループを作るというのは男性ではあまり聞きません。またキャンパスに男性がいれば、意識して恥ずかしがる、行動を自粛するということもあるような気がします。したがって、女性中心の社会であれば、集団の中でリーダー役など様々な役割が必要となり、おのずと男女共学と比べ、自分に向いた役割、ひいては自分らしさが出しやすくなるのではないでしょうか。
例えば、戸板祭と言われる10-11月に実施する文化祭では、学生会(高校の生徒会と同様)を中心に、様々な役割を持って思い思いに活躍する学生たちを垣間見ることができます。昨今のハロウィンの流行の影響もあり、仮装姿も大胆になりつつあります。さらに、戸板はお嬢様学校と言われるような高級ブランドを身につけるセレブは少なく、堅苦しさがない自由な雰囲気の一方で、明治以来の歴史を持つ首都圏内でも限られた学校であり、地域の皆さんにも親しまれ、落ち着いた雰囲気も持ちあわせています。
2.誰か波長の合う人がいる
食事でも教員に個人的なことで訪ねに来る場合でも、常に特定の友人と一緒に行動する場合が多いというのも女性らしさの一つです。女性だけの学校であれば、それだけ様々な女性がいるということであり、一生の親友を得る機会は増えると思います。服装の趣味など似た者同士の友達グループが戸板女子短期大学では目立ちます。
3.学習に専念しやすい
食物栄養科は、栄養士を取得するはっきりとした志望目的があり、調理すること、食べることが好きな学生もいて、趣味と実益を兼ねられたと肯定的で意欲ある学生が多くを占めます。男子学生がいないことを寂しいと感じる学生は恐らくおらず、華美な学生もごく一部で、夢中になって学ぶことができる環境です。少々勉強が苦手、作業が遅いという学生に配慮し、ときに進んで助けてくれる心温かい学生が多いのも戸板の特長です。したがって、困ったときに思い切って周りの人に相談できるようになることが、栄養士を取得し、卒業する上でも近道です。
学生に限らず、相談しやすい教員も多くいます。高校時代のように担任やはっきりとした学級活動があるわけではないですが、大部分の授業は栄養士必修科目であり、他学科に比べ選択科目が少ないことから、食物栄養科の3つのクラス(F1~F3クラス)は、それぞれ多くの授業で一緒に行動することになるので、クラスごとの独特なまとまりが毎年、見られます。各クラスは戸板祭で飲食店など展示をすることになります。それぞれにクラスアドバイザーの教員と、年齢が近い女性の助手がおり、いつでも気軽に相談できます。
4.社会に向かって即戦力
限られた期間に栄養士という確かな国家資格が取得できるというのも戸板女子短期大学の強みです。その代わり、4年制大学よりかなり忙しく、特に1年生の前期で受講する講義が多く、朝9時から夜6時過ぎまで授業で埋まる曜日もあります。実験、実習、演習と名のつく科目の多くは、出席だけでなく、次の週までを期限に多くの課題を課されます。加えて、2年次の夏休みに学外実習があり、栄養士がいる保育園、病院、老人ホーム、事業所などに1週間、派遣されて、現場で栄養士や調理師の方々から指導を受けることになります。しかし、栄養士自体は、管理栄養士のように資格試験があるわけではないので、栄養士必修科目を全て修得すれば取得できます。したがって、欠席が少なく、提出物を期限通りに出している学生であれば、ほぼ例外なく、これまで栄養士を取得しています。とはいえ、テストでは高得点を取って欲しいものです。平成28年度は150余名の学生のうち、9割以上の学生が栄養士を取得できました。さらに勉強したい人には、編入学の進路指導も受けることもできます。平成28年度は9名の学生が4年制大学の2年次あるいは3年次に編入することとなり、うち管理栄養士資格の学校に2名、中高の家庭科あるいは理科、保健の教員資格の学校に6名合格しています。
5.良好な就職状況
失われた20年(デブレ不況)と言われて久しいですが、ここ数年で我が国の採用状況は好転しました。相変わらず大手有名食品会社やアスリート専属など特殊な栄養士を目指すのは大変な人気、倍率になりますが、一般的な栄養士職、保育園、学校、病院、老人ホームなどで働くものであれば、たとえ地方も含む地元近辺にこだわっても雇用は十分あります。若い人にありがちな、人目を引く職業に希望者が殺到する傾向は今でも続いていますが、あまり知られていない地味な仕事にも実は多くの魅力があるのです。小学校で働く栄養士はよく知られているものの、多くの場合、各職場で縁の下の力持ち的な栄養士職は、希望する学生のほぼ全てが採用される傾向が戸板では続いています。
以上のように戸板女子短期大学食物栄養科の様子を私なりに書きました。50歳近い私から見て、学生の皆さんは娘のようなもので、若さから日々元気をもらっています。私は皆さんの空気、風のような存在でありたいものです。そんな戸板に高校生の諸嬢の皆さんは、どうぞ、お越しください。
担当 食物栄養科 准教授
栄養学研究室 橋詰和慶