梅雨時の温度管理の難しい季節となりました。お宅の食品の保存状態はいかがですか?温度も湿度も高いこの時期は、食品が腐りやすく、油断をしていると食中毒にかかってしまうかもしれないということは、皆さんもご存じでしょう。
食中毒と一言で言っても、その原因はさまざまで、大きく分けると、微生物性食中毒、自然毒食中毒、化学性食中毒などがあり、実は1年を通して頻繁に発生しています。
今回は、特に夏に発生のピークを迎える細菌性食中毒の話題を中心にお届けします。
表1は、昨年の原因物質別食中毒発生状況です。
表1 平成23年 病因物質別食中毒発生状況
(厚生労働省食中毒統計より)
平成23年に国内で発生した食中毒事件の件数は、約1,000件で、患者数は21,000人を超えています。死者は初めて平成21,22年と連続して0人だったのですが、残念ながら昨年は細菌性食中毒で10人、自然毒で1人の死者がありました。
図1は、平成12年から昨年までの食中毒事件数と患者数の推移を表すグラフです。
図1 食中毒事件数および患者数の推移
平成に入ってから、食中毒の事件数は平成10年をピークに減少しているものの、患者数は横ばいで、特にここ数年は、ノロウイルスによる食中毒が原因物質のトップを占めています。このようなウイルス性食中毒は、主にカキなどの2枚貝を食する冬を中心に増加します。
一方、細菌性食中毒の事件数では、例年1位と2位を占めているのが、カンピロバクターとサルモネラ属菌です。特に、カンピロバクターによる食中毒は、この10年間で300件を下回る年はありません。その細菌性食中毒は、まさにこれから、夏場に発生のピークを迎えます。
主なものは、上記のサルモネラ属菌(鶏卵、牛肉などから感染)およびカンピロバクタ-(生の鶏肉、牛肉)のほか、ウェルシュ菌(シチュ-の翌日の残りなど)、腸炎ビブリオ(海産魚介類のさしみ)、病原大腸菌(肉類)、腸管出血性大腸菌(生の牛肉)、ぶどう球菌(にぎりめし)などがあげられます。カッコ内には、それぞれの感染源としてよく知られる例をあげましたが、もちろん、これ以外にも多くの食品が感染源となり得ます。
また、感染力の強い菌では、人からの二次感染に注意が必要です。生肉に触れた手やまな板・包丁などの調理器具、野菜や他の食品も重要な感染ルートで、とりわけサラダは、いろいろな食中毒の原因となっています。
それぞれの食中毒については、すでにたくさんの教科書や書物に詳しく述べられているところですが、なかでも触れておきたいのは、カンピロバクタ-と腸管出血性大腸菌による食中毒です。この二つは、近年食中毒の発生件数が増え、しかも重症化事例がしばしば見られ、厚生労働省も特に注意を呼びかけています。
カンピロバクターは、鶏や牛などの腸管に存在していて、少量でも感染し、体内に入ると2日から7日くらいで、発熱、下痢、吐き気などの症状が現れます。まれに重症化し、『ギランバレー症候群』という神経系の病気を発症したりすることもあります。バーベキューを楽しむ季節ですが、くれぐれも生焼けの鶏肉にはご注意くださいね。
ごく最近の話題と言えば、今月1日から食品衛生法に基づいて、生食用牛肝臓の販売が禁じられたことでしょう。肉好きの筆者としては、牛の「レバ刺し」が食べられなくなるのはとても残念なことですが、腸管出血性大腸菌による重い食中毒を予防するためにはいたし方ないことかもしれません。
腸管出血性大腸菌(O-157、O-111など)は、主に牛の腸にいる細菌です。わずか2~9個の菌だけでも病気を起こし、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの危険な状態を引き起こして、死亡の原因にもなります。厚生労働省の統計によると、2010年までの10年間で腸管出血性大腸菌による食中毒患者は2,599人にのぼり、昨年は、714人の方が発症し、7名の方が亡くなっています。(表1)
ところで、牛の肝臓は表面だけでなく内部にも腸管出血性大腸菌が存在していて、十分に衛生管理を行った新鮮なものであっても、また消毒薬や紫外線照射によっても肝臓内部の腸管出血性大腸菌を取り除くことは不可能です。ですから、残念ながら今のところ『生で食べないことが唯一の予防法』ということなのです。
このかわら版を執筆中、新聞に「病原性大腸菌O-157の中に、猛毒型のO-157が存在することを千葉大チームが見つけた」という記事が掲載されました。記事には、感染したときに『猛毒型』と分かれば早くから重症化を防ぐ治療法につながると書いてありました。(Molecular microbiology 電子版)このような研究がますます進歩し、安全性を確保できる新たな知見が得られるまで、牛のレバ刺しは我慢することにしましょう。
最後に、家庭でできる食中毒予防の6つのポイントと食中毒予防の3原則を、厚生労働省ホームページから転載して、ご紹介します。
何はともあれ、 ①付けない ②増やさない ③やっつける
の「食中毒予防の3原則」を守って、この夏を健やかにお過ごしください。
ポスター厚生労働省HPより
担当 食物栄養科 教授 良永 裕子