2006年度11月号 インゲン豆と血液のふしぎな関係
戸板の給食管理実習
食物栄養科では後期の給食管理実習が始まりました。 この実習は、学内の実習専用の厨房と食堂を使い、100食の給食を作って教職員や学生に食券を販売し食べてもらうというものです。10月10日のメニュー は「ソフトフランスパン,クリームコーンスープ,白いんげん豆のチリコンカン,野菜サラダ,ぶどう」でした。どうです?字を見ただけでもおいしそうではありませんか。事実、戸板の実習の給食は、掛け値なしに大変おいしいのです。しかも、栄養的にもとても充実しています。この実習は学生にとって、いろいろな科目のなかでも最も重要で、しかも充実した科目ではないかと思います。栄養士課程でいろいろな科目で勉強した知識と技術の集大成が、実際に形となって表れ るからです。配膳の窓口で接する学生には、緊張感と責任感と少しばかりの誇らしげな表情が感じられ、他の授業科目ではまず見ることのできない充実感がある ように思われます。
白いんげん豆のチリコンカン
10日のメニューのチリコンカンの主役は、白いんげん豆です。“白いんげん”といえば、そう、“白いんげん豆ダイエット”を思い出す人もいるのではないで しょうか? 今年(2006年)の初夏にテレビの健康・美容情報番組で、白いんげん豆を使ったダイエット法が紹介され、それを実践した多数の視聴者が、激しい嘔吐と下痢を症状とする健康被害を受けました。そのダイエット法の内容は、「白インゲン豆を3分ほど煎って粉末にし、ご飯にまぶして食べる」というものです。番組を放映したTV局に連絡があっただけでも被害は約1,000件で100人ほどが入院したそうです。
レクチンというタンパク質のしわざ
なぜこんなことが起きたのでしょうか?原因はインゲン豆に含まれるレクチンというタンパク質です。レクチンは、赤血球凝集素(ヘマグルチニン)ともよばれ、 赤血球に結合することによって、のりのように赤血球どうしを接着させて凝集させる作用があります。このレクチンは消化管の表面の、食物と接する細胞にも結合して細胞に障害を与えます。レクチンは植物にも動物にも微生物にもあって、インゲン豆には特に多く含まれます。
レクチンの多彩な活躍
レクチンの細胞表面に結合する性質は古くから知られ、細胞生物学的研究や免疫学的研究に利用されています。また、これとは全く畑の異なる農業分野では、いんげん豆に含まれるでんぷん分解酵素阻害物質を利用して、昆虫が食べるとデンプンを消化できなくなって餓死してしまう“殺虫性作物”を作り出す研究が行わ れています。ねらいは、安全面で懸念のある殺虫剤の使用を減らすことです。では、赤血球凝集素とデンプン分解酵素阻害物質は同じ物なのでしょうか?いんげん豆ダイエットのねらいもここにあったわけですが、 この点については、2つの物質の遺伝子の構造に共通性があることが報告されていますが、まだよくわかっていません。
【 栄養生化学研究室 堀坂宣弘 】