3月担当 戸板女子短期大学 応用栄養学研究室 豊島 裕子です。
通勤の道筋で沈丁花が香ります。隣家の庭の梅も満開です。お寺の辛夷も開き始めました。今年は例年に比べ、春の訪れが早いようです。
例年であれば、冬風邪の代表格である一般的なコロナウイルス感染症」そろそろ大人しくなり始める頃ですが、新型コロナウイルス感染症は、梅が咲こうが、沈丁花が香ろうが、一向に御構い無しのようです。
1.ウイルス感染症と免疫
病気の原因になるウイルスにはいろいろな種類が有りますが、1mmの1万分の1ほどのとても小さな生物です。小さすぎて一人で生きていけなくて、人など他の生物の細胞の中に入り込んで育ててもらいます。図々しい奴で、育った暁には家主の細胞を食い殺して社会に旅立っていきます。まぁ、カッコウの托卵みたいなものでしょうか。この状態がウイルス感染症です。ウイルスたちは細胞に入り込んで守られているので、有効なお薬が少ないのが現状です。
さて、お薬は少ないですが、我々の体にはウイルス感染症を治す力が初めから備わっています。血液の中の白血球という細胞がウイルスと戦ってくれます。私たちの体細胞の中でウイルスが増えてパンパンにウイルスが詰まった状態になると、細胞たちは挙動不審になりウイルスが詰まっていることがばれてしまいます。そんなウイルスが詰まった細胞を、「白血球s」のメンバーのマクロファージ、ナチュラルキラー細胞、キラーT細胞などが(図1)、ウイルス入り細胞ごと食べて処理してくれます。体細胞の中で増えすぎて体細胞が破裂して細胞の外に飛び出したウイルスたちは「白血球s」メンバーの形質細胞が作った抗体で溶かされ、病気を起こす力を失っていきます。ウイルス感染症を治すため、ウイルス感染症にかかっても軽症でやり過ごすためには、これら「白血球s」を元気にしてあげることが大切です。
コロナウイルス・グループは、直径1mmの1万分の1程の球形で、表面に王冠のような突起を持つために「コロナ」と名付けられました。コロナウイルス・グループにはこれまで6種類の仲間が確認されています。4つのコロナウイルスは1回目の東京オリンピックの頃から21世紀の初めまでに発見された古いウイルスで、冬になると子供が鼻水を垂らしたり、下痢をしたりするいわゆる「冬の風邪」の原因でした。「静かに寝ていなさい」とお母さんに言われて、一晩寝たら元気になるタイプの風邪です。残りのコロナウイルスは記憶に新しいSARSとMERSです。
突如現れた新型コロナウイルスですが、初めは前者のような冬風邪タイプかしらと思わせるところがありましたが、ここにきて困った特徴をたくさん現しはじめました。
(1) 高齢者や慢性疾患をお持ちの方で重症化するところはSARS、MERS似であること
(2) 軽症者が8割以上と多いことと潜伏期間が長いことから、軽症者が感染源となり感染を拡大させること
健康な皆さんがいつ感染源になってしまうかわからないのが新型コロナウイルスの困ったところでしょうか。人に移さないために、自分も罹らないようにすることが大切と思います。
3.自律神経、内分泌、免疫協力体制
私たちの体の中にはいろいろな臓器、いろいろな働きが詰まっています。それらは決して単独行動はせず、いくつかの臓器、働きが力を合わせて健康を守っていることが知られています。その中で代表的なのが、「自律神経―内分泌―免疫 軸」と呼ばれるグループで、3者は力を合わせて健康維持のために頑張っています(図2)
このメカニズムから、自律神経機能をアップさせると免疫力増強つまり「白血球s」が元気になるといわれています。免疫力アップのためには自律神経の中でも副交感神経機能をアップする必要があります(図3)。副交感神経は内臓の働きを助け、体づくりに貢献する神経です。それでは、食物栄養科から副交感神経機能をアップして、風邪予防、免疫力をアップする方法をお伝えしましょう。
4.風邪をひいたらネギを首に巻く
ずっと昔、本当に行われていた風邪撃退法のようです。私も子供の頃聞いたことがありますが、実際に巻いたことはありません。インターネットでは効果がないからやめなさいと書かれていますが、実際はどうでしょうか。首にネギを巻いた時の効果を検証してみました(2019年11月実験)
(1) 研究のやり方
① 使ったもの
a. 長ネギの白い部分20cm
b. 30cm幅ガーゼ120cm
c. ホルター心電計(病院で不整脈や狭心症の検査に用いる小型24時間記録用心電計)
② やり方(図4)
ネギは蛇腹切、下側3mm程がつながったままになるように、上側だけに細かな切込みを入れます。切込みの幅は蕎麦の薬味程度でよいと思います。切りすぎないように両側に割りばしを置いて切ると良いでしょう。
これをガーゼで包み、直接肌に触れないようにして首に結びます。胸に心電計をつけます。
(2) ネギを首に巻いた効果を見てみましょう
ホルター心電計で測定した副交感神経機能の変化をグラフで見てみましょう。ネギを首に巻くと、すぐに副交感神経機能がアップします。30分ほどしてネギを外しましたが、アップした状態はしばらく続いているようです(図5)
ネギのツーンとする香りのもとであるアリシンという物質には殺菌作用があり、それが風邪を治すのかもしれないといわれています(図6)
(3) アリシンの効果を十分に発揮させるために大切なこと
① アリシンはネギの細胞の中に有るので、細かく切れ目を入れて細胞を壊す(写真のように蛇腹に切るのが良いと思います)
② アリシンは熱に弱いので、焼いたりせずに生のまま首に巻く
③ アリシンは刺激が強いので、首に直接巻かずガーゼなどで包んで巻く
④ 鼻粘膜から吸収されると考えられるので、鼻に近い首に巻く(お腹や足首に巻いても効きません) 等を守ることが大切と思います。
ネギを食べたときの効果は、またの機会にお知らせしましょう。お楽しみに。
博士(医学) / 日本内科学会認定内科医 / 日本神経学会神経専門医 / 日本脳卒中学会専門医 / 日本生理学会認定生理学エデュケーター
戸板女子短期大学では、応用栄養学/応用栄養学実習/運動生理学/栄養士実践演習/給食管理実習/食物栄養科ゼミナールを担当
本件のお問い合わせ・取材に関しては
戸板女子短期大学 入試・広報部 澁谷まで
TEL03-3451-8383